« 空転する国会の裏舞台 | トップページ | 米軍基地の移設と国益 »

2009/12/03

芸術・文化振興にもっと力を入れられないか

1960~70年代、アメリカの著名な経済学者だったハーバード大学のジョン・ケネス・ガルブレイス元名誉教授(1908年10月15日~2006年4月29日)の著書『ゆたかな社会』『新しい産業国家』『不確実性の時代』は経済成長の時代を迎えていた日本でもずいぶん読まれ、一世を風靡したものです。

2003年1月に、朝日新聞の山本記者が晩年のガルブレイス氏にインタビューした記事が印象に残っています。ガルブレイス氏はこの中で、日本の現状について「相変わらず、国内総生産やサービスの総量を拡大すること、雇用の高さを維持することだけが重視されているようだが、成熟した日本も新たな物差しが必要なのではないか」と指摘しています。

さらに、ガルブレイス氏は「GDPが大きくなった結果、自分たちの生活が深く多彩に楽しめるものになったかどうか、見直してみるということだ」と述べ、「日本で、オペラやオーケストラの質向上が真剣に議論されているのだろうか。芸術・科学・スポーツ・教育などが、もっと投融資の対象になっていい」とした上で、「働くことが人間の最終目標でもなかろう」という言葉で結んでいます。

私はこれを読み、実にガルブレイス氏らしい含蓄のある示唆に富んだ発言だと思いました。国内経済が停滞し、雇用問題が大きな課題となっているこの時期に、ガルブレイス氏の話を持ち出すことは不要な誤解を生むかもしれませんが、私自身は決してGDPの成長にケチをつけるつもりはございません。

ただ、鳩山首相の「コンクリートから人へ」というメッセージは、ガルブレイス氏がインタビューで我々に伝えたかったことの本質にいささか通じているのではないか―と思った次第です。

今、各府省の概算要求が出され、仕分けチームの精査も終わりました。この後、財務省との最終の詰めが残っておりますが、国土交通省や農林水産省にしろ、他の府省にしても凄まじい量と額の予算を要求しています。そして、業界団体や国会議員、それぞれの動きも活発化してきます。

こうした中で感じるのは、ガルブレイス氏が指摘した芸術文化の分野に関連した予算獲得を声を大にして訴え、積極的に動いた国会議員や地方議員がこれまであまりいなかったということであります。

例えば、日本のオペラ界においては、古くからある二期会や藤原歌劇団といったオペラ団体のほか、新国立劇場がよく知られております。しかしながら、こうした由緒ある団体にしても、ヨーロッパの国々と比較したら余りにも乏しい予算で切り盛りしているようです。

文化庁に直接聞いたところ、これら団体の公演ごとに同庁も3分の1の助成をしているとのことでしたが、この不景気で入場者が激減しており、公演どころか「団体そのものの運営さえ厳しくなってきた」と不安を漏らす声もあるほどです。

日本のトップクラスと認知されているオペラ歌手にしても、1回の公演で手にするのはわずかばかりの出演料と言われていますし、結局は大小のコンサートで営業したり、副業やアルバイトなどで稼いで生計を立てているのが現状のようです。

これは、メディアと近い演劇関係にしても大差ありません。俳優座にしろ青年座にしろ、どこの劇団でもテレビや映画で活躍しているはほんの一握りの役者だけであり、ほとんどの皆さんはアルバイトなどで生活費の大半を賄い、舞台公演では僅かな手当てを貰っているに過ぎないのです。

芸術文化の世界には直接関係のない私ですが、こんな状態ではとても日本は「文化大国や芸術大国」などという看板を掲げられた話ではないと強く感じます。ピアニストでもバイオリニストでも、演奏家と呼ばれる人たちは幼い時から並々ならぬ訓練と努力を重ね、この中からほんの一握りの方が日本の一流の舞台で活躍できるのです。それでいて、本業の演奏活動そのものは収益が上がらないというのですから、芸術文化を高めるためのその苦労は推して知るべし―と言えます。

私たち政治家が彼らの活動への理解を深めると共に、国も(ヨーロッパ諸国並みとは言いませんが)芸術文化向上のため今以上に予算的な面でももっと力を入れるべきだと思うのです。ガルブレイズ氏の言われるように、日本も成熟した国家とし「公共投資」の対象を真剣に考える時ではないでしょうか。

|

« 空転する国会の裏舞台 | トップページ | 米軍基地の移設と国益 »

「経済・政治・国際」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/21420/32473878

この記事へのトラックバック一覧です: 芸術・文化振興にもっと力を入れられないか:

« 空転する国会の裏舞台 | トップページ | 米軍基地の移設と国益 »